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第858話 疑惑 24-1

 向かう先は校内でも一番広い特別教室。広さは通常の教室二つ分より少し広い。二クラス合同とはいえ随分と広い教室を使ったものだ。前宣伝もしているだろうし、長い列でもできているのだろうかと予想していたが、いざ教室に着いてみると入り口近くに数人並んでいる程度だった。思ったより客が入っていないのだろうかと、なに気なく教室内を覗けば中はかなり賑わっている。 「混んでいて待つお客さんが少ないのかな?」  満席に近い状況では長い時間を待って入るというのは気が引けるのかもしれない。そんなことを思い、忙しそうな生徒たちを横目に通り過ぎようとしたら、ふいに後ろから腕を引かれた。 「西岡先生」 「え?」  驚いて振り返った先にいたのは、うちのクイーンこと三年の鳥羽由香里だった。 「あ、鳥羽か」  小さく首を傾げてこちらを見上げる鳥羽は、膝丈のワンピースに白いフリルエプロン。頭にはシンプルなカチューシャをしていた。ふんわりとした栗色の長い髪に落ち着いたえんじと白の組み合わせ。それはどこか慎ましく、お屋敷のメイドのような雰囲気を醸し出している。 「寄ってはくださらないの?」 「いや、忙しそうだなと思って」 「西岡先生をお招きするくらいはできましてよ」  そういって腕を組むようにして鳥羽に手を引かれると、僕は教室の中へと案内された。広い教室の中には話し声に紛れる程度の音楽が流れている。そして見渡した教室の窓は普段の質素なカーテンが外され、清潔感のある真っ白なレースカーテンに変えられていた。教室の三分の一はパーティションで区切られバックヤードになっている。テーブルに使用している机にもクロスがかけられて、一瞬ここが学校の教室であることを忘れてしまいそうな仕上がりだった。

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