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第863話 疑惑 25-2
美味しいケーキに緩む頬は止まらず、さほど時間もかからぬうちにぺろりと平らげてしまった。そして最後にミルクだけ垂らした少し香ばしい珈琲を飲むとほっと息がついて出る。
「うん、今度こそ仕事をしよう」
二度目の意気込みに自分のことながら苦笑いが浮かんでしまう。しかし仕事に戻らなければいけないのは確かだ。一度目の意気込みからすでに三十分が経過していた。
「ゆっくりできました?」
「ああ、うん。ご馳走さま」
席を立った僕に気がついたのか、出入り口の近くにいた鳥羽がこちらを振り返った。やんわりと笑みを浮かべる鳥羽に頷き返せば、「それはよかった」とますます笑みを深くする。
「ん? あれ、ちょっと待った」
「どうかしまして?」
「あ、うーん、いやなんでもない」
鳥羽のにこやかな笑みになにか引っかかるものを感じてしまう。そしてそれに気づいた僕は、あえてその場では気づかないことにした。なぜ僕が席についたところに藤堂がやってきたのか、なんてことは深く追求しないほうがいい。
「お仕事、頑張ってくださいね」
「ああ、ありがとう」
廊下まで見送りにでてくれた鳥羽に片手を上げて返すと、僕は少しばかり鼓動が早くなった胸に手を当て特別教室をあとにした。
なんだか秘密のはずなのに、知られていそうな人物が意外に多いことに気がついてしまう。
「もう少し気をつけよう」
うっかりしていると気が緩んで気持ちが外側にあふれでてしまいそうなくらいだ。せめて学校にいるあいだくらい気を引き締めていかないと、誰に気づかれてしまうかわからない。いまのところ知っていると思われる生徒たちは口が堅そうだからと信頼が置けるが、さすがにこれ以上誰かに知られるのはよくないだろう。
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