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第867話 疑惑 26-2

「あー、ほら、おでこ」  訝しげな顔をしている僕に、声をかけてくれた先生はトントンと人差し指で自分の額を叩いてみせる。その仕草でようやく言葉の意味を理解した僕は、なんとも言いがたい複雑な気分になった。 「そんなに皆さんに知れ渡ってますか?」  話を詳しく聞くと少しばかり尾ひれがついていた。額をぱっくりと割ったことになっていて、知らぬ場所で多大な心配をかけてしまっていたようだ。たんこぶ程度の怪我だと伝えると安堵したようにみんな笑い返してくれた。まったく人の噂や事実の歪曲とは恐ろしいものだ。一体どこからそんな話になっていたのだろうか。ほかの先生や生徒たちの反応次第では面倒なことになりそうな気がした。  それでも走り去った生徒のことは話題に出なかったのでほっとする。あの時の二人には改めて礼を伝えておこう。 「あ、そろそろ終わりか」  職員室にいる先生たちと見回りについての情報交換を終えて腕時計に視線を落とした。気づけばあと三十分ほどで賑やかだった文化祭も終わりだ。クラス担任や部活顧問の先生たちはそれぞれの出店場所へと向かい始めた。僕も一度生徒会室へ戻って報告などをしなければならない。 「ん? なんだ、これ」  机の上に載せられたプリントやメモなどを見ていたら、重ねられた紙の隙間から見覚えのない封筒が滑り落ちた。床に落ちたそれを拾い上げて封筒の表と裏をひっくり返して見るが、そこにはなにも書かれてはいない。茶色い長封筒ではない真っ白な洋型封筒。時折こういった封筒を片平が持ってくることがあるので、もしやそれだろうかと僕は糊付けされた封筒をペーパーナイフで開けた。  そこから現れたのは想像していた通り写真だった。けれどそれをなに気なく封筒から抜き取った瞬間、背筋がゾクリと冷えた気がする。そして思わず押し隠すように慌てて胸に写真を引き寄せてしまう。急激に心臓の音が早まって、耳元で鳴っているような錯覚に陥った。

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