877 / 1096
第877話 疑惑 28-4
「どうかしましたか」
「いや、あの、急に悪い。その」
いま大丈夫か、などと聞いて手が離せないと返されたらおしまいだ。喉まででかかった言葉を飲み込んで僕は別の言葉を探した。
「あのさ、いまから会えないか」
言葉を探した結果、直球で聞くしか答えが見つからなかった。下手にあれこれ言葉を遠まわしにしても、僕はさらに言葉に詰まるだろう。一体どのくらいこの会話を繋いでいればいいのかわからないし、相手は話を持ちかけてすぐに返事ができるタイプではない。
「え? え? ど、どうしたんですか?」
「ちょっと会って話したいことがあって」
僕じゃなくて明良が、だけれど。それにしても随分動揺しているな。いや、急にこんなことを言われては誰でも驚くか。普段の僕がいきなりこんなことを言うのは滅多にない。いや滅多にどころかないだろう。
「あー、えーと、電話じゃ難しいことですか」
「そうだな電話じゃなく直接話したい」
「直接、ですか」
なんだろう。急に声が小さくなったな。誰かと一緒にいてその場で電話をとってしまったとかなのだろうか。なんとなく早く電話を切りたがっているような気配がある。
「あのさ、間宮」
「うわっ」
「え?」
いまどこにいるんだと聞こうとしたら、急に間宮がなにかに驚いたような声を上げた。その声に僕までも驚いてしまって、言葉が喉奥に詰まってしまう。
「間宮?」
なにやら電話の向こうの音がおかしい。マイク部分をなにかで覆っているような、がさがさという雑音が聞こえる。しばらくその音に耳を澄ましていたら、なにかを言い合うような声が聞こえてきた。
「もしもし? 間宮?」
「……あ、佐樹か? とりあえずそのまま待ってろ」
「え? 明良?」
もみ合うような物音が聞こえて電話の向こうにいる間宮に呼びかけた。しかししばらくして聞こえてきたのは聞き間違えようもない明良の声だった。
ともだちにシェアしよう!