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第878話 疑惑 29-1
僕の声を確認すると一方的に通話は切断され、不通音が耳元に聞こえる。それから数分ほどか、状況整理がつかないまま僕の目の前に現実が突きつけられた。
「なんでお前がこんなところにいるんだ」
明良に背中を押されリビングに入ってきたその姿に、思わず口をあんぐり開けてしまう。顔色を青くしながら気まずそうに下を向くその顔を見たら、それ以上言葉が見つからなかった。
「こいつ、駅からマンションまで着いてきた」
僕の疑問に答えるように明良が肩をすくめる。そして肩を押して目の前の――間宮をその場に座らせると、手にしていた携帯電話をその膝に放った。
「なにをしてるんだお前」
「す、すみません」
か細い声に呆れてため息が出てしまう。なんだかどっと力が抜けて両手を床についてうな垂れてしまった。用事があると言っていたのは嘘だったのだろうか。なぜ僕のあとをつける真似なんてしたんだろう。
「もしかして明良、郵便受けを見に行くって言ったのも、着いた早々に煙草吸いにベランダに出たのも、確認するためか?」
「佐樹にしては敏いな。こいつ一旦マンションの前を通り過ぎたのに戻ってきたんだよ」
僕の隣に腰を下ろした明良は、俯いた僕の頭を乱雑に撫でる。なだめているつもりなのだろうが、僕の口からはため息しか出てこない。しかしいつまでもこうして床に張り付いているわけにもいかない。仕方なく顔を上げると、間宮と視線が合った。
「お前なんでこんなことしたんだ」
「それはその」
「はっきり言わないなら、この先の付き合いを考えさせてもらうからな」
口ごもって視線をそらした間宮に語気を強めると、びくりと肩を跳ね上げてその場で背筋を伸ばした。じっと目を細めて見つめれば、俯いた視線が落ち着きなく左右に流れる。
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