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第881話 疑惑 29-4

「結婚して半年で家出ねぇ。最初からほかに男がいたんじゃねぇの?」 「あ、もしかして大学院をやめて就職したのは結婚を機にってやつか」  話を聞いていくうちに、なるほどといままで疑問だったことがわかってきた。しかし婿入りさせて両親を預けたまま家出というのはどうなのだろう。さすがにひどい話だと思う。こういう場合は離婚することはできないのだろうか。  いや、けれど似ているというだけで僕を追いかけてしまうほどだから、間宮に別れる意志はないのかもしれない。 「はあ、なんだよ紛らわしいな」  あとをつけているというくらいだから、写真に関することとなにか関連があるのではと思った。しかしそれはまったくの杞憂だったというわけか。結局どれもなんの手がかりもないということだ。 「とりあえずもうやめろよな。どのくらいあとをつけていたのか知らないけど、その、わかっただろ理由は」  いつどの場面を見られていたのかわからないが、これはかなり恥ずかしいことなんじゃないだろうか。無防備な自分を見られていたということだ。しかも藤堂と一緒にいる僕なんて隙だらけもいいところだ。 「すみません。前は人付き合いも避けている風だったのに、最近はほかの先生たちとも親しげで、少しそれが、その」 「要するに、いままで自分だけが傍にいたと思ってたわけだ。あからさまな独占欲ってやつだな。なんだかんだで佐樹自身に興味があったんじゃねぇかよ」  呆れたようにため息を吐き出した明良に、間宮はびくりと肩を跳ね上げると身を縮めるように小さくなってしまう。僕はその様子に苦笑いを浮かべるしかできなかった。なんだか少し頭も痛くなってきた。正直裏切られた感はあるが、なんだかそれを考えるのも嫌になってくる。  明良の気になるところは解決されたわけだし、もうそろそろいいだろうか。このまま藤堂に会いに行きたい気分でいっぱいだ。ため息交じりに僕は肩を落として携帯電話を見つめた。

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