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第883話 疑惑 30-2

 身の置き場のない感覚は本当に居心地が悪い。そんな俺の心境に気づいているだろう弥彦は、少し離れた場所から心配げな顔をして視線を投げかけてくる。けれど視線は合うものの、助け船を出せる状況ではなかった。 「お前は少し人に慣れることが必要だな。高校卒業したらお前の大事な幼馴染みたちは、もういままでみたいに一緒にいてくれないんだぜ」 「うるさい」 「独り立ちも大切ですわね」  両脇を固められて逃げ場を失った。俺の横には文化祭の立て役者とも言える鳥羽と売り上げ指名率がダントツだった峰岸がいる。弥彦がこの仮打ち上げに参加することを聞いて、それならばと大人しく帰るつもりでいた俺は、玄関先でこの二人に捕まり連行されることになったのだ。 「俺は別に人間が嫌いなわけじゃない。騒がしい場所が苦手なだけだ」  集まった全員が一カ所に集まるのは不可能だったので、部屋は二つに分かれた。しかしカラオケボックスの大部屋の満員人数いっぱいに人が押し込められた部屋だ。流れる音楽も大きいが話し声も正直耳に障る。それに窮屈感もあってなんとなく落ち着かない。人には向き不向きというものがあるのだと、思わずため息がこぼれてしまった。 「一時間くらい付き合えよ。みんなお前がこうしているだけで満足なんだよ」 「……時間になったら帰るからな」 「心配するな今日は遅くならない」  訳知り顔で笑う峰岸はなだめすかすみたいに人の背中を叩く。それが居心地悪くて身をよじったら、さらに笑みを深くして峰岸は肩を組んできた。  その腕を払おうと試みるものの、狭さが邪魔をしてあまり大きく身動きが取れない。これ以上余計な労力を使うのは面倒だと、俺は諦めてテーブルの上にあるグラスに手を伸ばした。

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