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第886話 疑惑 31-1

 ようやくたどり着いた家の前に立つ。見上げたそこはいつもと変わらないような気はするが、なにか違和感もあるような気もする。追い立てられるような気持ちに急かされながら、扉を開錠しようと鍵を差し込んだ。するといつもは閉まっているはずの玄関の鍵が開いたままになっていることに気づいた。 「もしかして、出かけたのか?」  慌てて玄関扉を引き開けると俺は家に足を踏み入れた。そうして気がついた違和感の正体は家の暗さだ。いつもなら点っているリビングの明かりが消えている。最近は朝も昼も関係なくつけっぱなしになっていた。それなのに消えているのはどうしてだろう。  玄関に明かりをつけると、リビングに繋がる扉は開け放たれていた。そっと足を忍ばせ近寄るが人の気配はないようだ。手探りで入り口近くにあるリビングの明かりを点すスイッチを押せば、明かりはなんの問題もなくリビングを照らした。 「また派手に暴れたな」  明かりに照らされた室内はまるで泥棒が入ったかのような有様で、引き出しという引き出し、扉という扉がすべて開かれ、辺りにその中身が散乱している。軽いサイドテーブルなどは床に投げ出され、ガラスがはめられているところはほとんど跡形がなくなっていた。しかしこれはここ最近では見慣れた光景だ。あいつがヒステリーを起こすたびにモノを投げたり壊したりで、直しても意味がないのでガラスの破片以外はそのままになっている。  しんと静まり返ったリビングを見渡し、ゆっくりと慎重に足を進める。うっかりなにかを踏みつけて怪我でもしてはたまらない。 「なんだ、すごい傷だな」  リビングにこうして入るのは久しぶりだ。最近はほとんどあいつが家にいたのでリビングはおろかキッチンにも立ち入っていなかった。リビングにあるローテーブルとソファに近づくと、あちこちがなにか鋭利なもので傷つけられた跡があり、ソファは中ワタがはみ出て、テーブルは切り傷のようなものがびっしりだ。

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