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第887話 疑惑 31-2

 指先でテーブルをなぞるとボコボコとした凹凸ができている。  傷は古く変色しかけているものから真新しいものまで。床を見下ろせば、小型ナイフがむき出しのまま転がっていた。 「これは、写真?」  ナイフをテーブルの上に載せ、視線をもう一度床へ向ける。テーブルの下や床のあちこちに写真の切れ端のようなものがたくさん散らばっていた。比較的大きく見やすいものを拾い上げて視線を落とす。そこには見覚えのない女性がにこやかな笑みを浮かべて写っている。ほかのモノも拾ってみるとほとんどにその女性が写っていた。誰だろうかと首を傾げかけてようやく気づいた。隣に見覚えのある男が一緒に写っているものが数枚出てきた。 「父さん」  思わず口からこぼれた言葉に思わず自分ではっとした。まだこの男を父と思っている自分がいることに少し驚いた。 「それにしても、どれだけあるんだこれ」  ソファとテーブルの周りは大量な写真で床が覆い尽くされていた。膝をつき床の写真を広げて見ていくと、見知らぬ女性と父、そして幼い子供が写った切れ端が出てくる。ほとんどが無残に切り刻まれていて、原形を留めているものはないに等しい。  こんなものを毎日見ていたら気もおかしくなるだろう。――馬鹿な女だ。こんな写真を広げて相手に恨み言を呟いて、毎日のように無言電話をかけていたなんて、どれだけ執着しているんだ。  ふいに思い出し扉の近くにある電話台に足を向けた。そして電話機から伸びたコードを指先で引っ張りその行き先を確かめる。気がついたのはひと月前だ。あいつは電話台の前に立ち不通音を響かせる電話機を見下ろしていた。そしてしばらく時間が経つとリダイアルを押してどこかへとまた電話をかける。  呼び出し音が延々と響く中でじっと一点を見つめ立ち尽くしている姿にぞっとしたの覚えている。

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