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第888話 疑惑 31-3
それから俺はこっそりコードをプラグから抜き取った。いまの精神状態ではそれにも気がつかないのだろう。以降は繋がっていないのにも気づかないまま、不通音だけを響かせる電話の前に立っていた。
「はあ、それにしてもどこに行ったんだ」
一体いつ家を出たのだろう。普段は昼過ぎ、遅ければ夕方くらいまでソファで寝ているのに。あんな状態で外へ出歩いたら、どこかで事故でも起こしても不思議ではない。しかしどこへ行ったかなんて知りようもなく、職質でもかけられて帰ってくるのを待つしかない。
「ったく、面倒だな」
いない隙にこの散らかった部屋を片付けるという考えも浮かんだが、またすぐに元通りになりそうな気がして手間が無駄になるのが嫌だと思った。そういえばずっと開けていない冷蔵庫は大丈夫だろうか。ずいぶん前に生ものは処分したがそれ以来、中を覗くことすらしていない。
そう思いキッチンに足を向けようとしたが、玄関の呼び出し音が部屋に響いた。
「誰だ」
この家に訪ねてくる人など勧誘などの類しか思い浮かばない。面倒だと無視しようと思ったが、相手はしつこいくらいにチャイムを鳴らし続ける。出るまで引かないつもりだろうか。それとも――あいつになにかあったのだろうか。心配などしているつもりはなかったが、なにか面倒ごとでも引き起こしたのだろうかと不安になった。
ため息を吐き出すと、いまだ鳴り続けるチャイムに応えるべく俺は玄関へと足を進めた。
「はい、どちらさ、ま」
玄関扉を細く開いたその隙間に黒い手帳が差し出された。目の前で開かれたそれを見つめ俺は言葉を詰まらせる。予想はしていたが本当になにか面倒なことをしでかしたのか。
「藤堂、優哉くん、ここの息子さん?」
こちらを伺うような声と視線。嫌な予感が胸の中に一気に広がった。扉を大きく開くと男が二人。四十代くらいと二十代後半くらいで、二人とも暗い色のスーツを着ている。
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