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第891話 疑惑 32-2

「もしもし、藤堂?」 「佐樹さんっ」  タクシーに近づいた時、耳元の呼び出し音が途切れてようやく聞き馴染みのある声が返ってきた。その声に俺は思わず縋るような勢いで声を上げてしまう。 「ど、どうしたんだ?」  かなり大きな声が出ていたらしく、電話の向こうの彼だけではなく行き交う人も驚いたような顔でこちらを振り向いた。けれどいまはそんなことを気にしている場合ではない。 「佐樹さんいまどこにいますか? 一人ですか?」 「え? いま? いまは明良のマンションの、近くで一人だけど」  できれば誰かと一緒にいてくれたほうがよかったのだが、一人になってしまったのならば仕方がない。 「それはどこですか?」 「ん? えーと、お前の使っている駅の隣駅だ」  思った以上に近い場所にいる。これならばすぐに会えるかもしれない。そう思いタクシーの窓を軽く叩き、こちらを気にしていた運転手に乗る意思を伝える。すると後部座席の扉が目の前で開いた。 「どの辺りですか? いまからちょっと会いたいのでそこに行きます」 「いまから? あ、公園の近く。大きい公園なんだけど、なんて公園だったかな」 「隣駅にある大きい公園わかりますか?」  タクシーに乗り込み運転手に問いかけてみれば大きく頷いた。車でどうやらここから十分と少しくらいで着くようだ。電話を繋いだまま運転手に公園に向かうよう伝えた。 「佐樹さん、公園の近くに人が多くいそうな、駅とかはないですか?」 「あー、十五分くらいで駅には着くかな。あ、でもその手前にコンビニがあった」 「じゃあ、コンビニのほうが近いのなら、そこにいてくれませんか」 「んー」  いまはできるだけ人のいる場所にいて欲しい、そう思うもののなにやら彼の返事は曖昧だ。訝しみながらも返事を待つが、しばらく待っても言葉が続かない。

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