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第892話 疑惑 32-3
「どうしたんですか」
「あ、いや落とし物をして探していたんだ。いや、どこで落としたのかわからないんだけど」
「明良の家にいたんですよね? 家でなくしたなら電話でもして聞いてみればいいじゃないですか」
珍しくはっきりとしない声に少しきつい言い方をしてしまう。そんな俺の声に彼は「んー」とまた曖昧な相槌を打つ。一体なにをなくしたというのだろう。正直言えばそんなことより早く、どこかひと気の多い場所に移動して欲しい。
「もう少し、探してみる。明良とは駅前で別れたんだけど、携帯持って出なかったみたいで繋がらないんだ」
「それなら俺が着いてからでも遅くないでしょう!」
「え、あ、悪い」
思わず声を荒らげてしまった。彼に八つ当たりをしてどうするんだ。驚いたような声に申し訳なさが募る。けれど不安でならないんだ。もしものことがあったらと思うと、気が急いて仕方がない。杞憂であればいいのだ。俺の思い違いであるならそれでいい。ただ、いまは早く傍に行ってそれを確かめたいだけなんだ。
「すみません。あの、あとで俺も手伝いますから……佐樹さん? 佐樹さん!」
急に電話の向こう側が静かになった。コツコツと靴音が響いていたのに、その音も、声もしない。嫌な黒い予感が胸の中で急激に広まっていく。耳を澄ましながら何度も名前を呼んでいると、急に向こう側から鈍い音と雑音が聞こえた。それは携帯電話が地面に落ちた音だろうか。そして足音が、一つ、二つ、いやまだほかにもいるかもしれない。
「すみません、急いでもらえますか!」
「もうすぐで着くよ。どの辺りかな」
「近くにコンビニがある公園の入り口付近を徐行してもらえませんか」
携帯電話はおそらく道に落ちたのだろう。先ほど聞こえた複数の足音は遠ざかって聞こえなくなった。車の音もしていない。それほど遠くには行っていないだろう。となれば行き先は公園の中くらいしか考えつかない。
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