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第896話 疑惑 33-3
しかしこのまま黙って見てはいられない。あの出血量を見る限り腕の傷はかなり深いはずだ。
「おい、それは息子だ。怪我をさせてもいいが、殺すなよ」
腕を振りほどこうと暴れる俺に対し、苛立たしげな様子で細身の男は眉をひそめる。そしてそんな仲間に、いままで口を閉ざしていた眼鏡の男が初めて言葉を発した。その意味ありげな言葉を聞いて、俺は睨みつけるようにその男を見る。
やはりこの三人は意図があって彼を拘束し暴行を加えたのか。俺を殺すなということは彼は殺しても構わないということなのだろう。腹立たしい――目の前にいる奴らもそれを指示した人間も、全員制裁を受ければいいと思う。けれど一番自分が憎らしいと思ってしまう。俺が彼を巻き込んだのだ。
俺がもっと早く気づいていれば、なにか手立てを考えることができたかもしれない。こんなことが起こる前に、防ぐことだってできたかもしれない。今更こんなことを思ってもどうにもならないことはわかっているが、悔しくてもどかしくて目の前の男にひどく苛立ちを感じてしまう。
「ああ、どうりでどこかで見た顔だと思った。息子か」
「顔も見られてるんだし、面倒だから二人まとめて片付けてしまったほうがいいんじゃないっすか」
「確かに面倒だな」
俺の顔を見ながら細身の男は口の端を歪め笑い、金髪の男は少し興奮したように言葉を吐き出す。そんな二人の仲間に目を細めた眼鏡の男は、おもむろに彼の腕を掴んで座り込んでいた身体を引き上げた。そして彼が痛みに顔をしかめるのもお構いなしに立ち上がらせると、両腕を後ろでまとめる。
「いい加減、お遊びも飽きたしな。そろそろ終わらせてしまいたかったところだ」
「そういうことだ、仁科。お前、あれを殺ってしまえ」
肩をすくめて笑った男の表情と、耳元で聞こえた言葉にぞっとした。
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