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第898話 別離 1-1
腕の痛みがひどくて血の気も引いて冷や汗が流れる。頭もガンガンと痛み、意識がぼんやりとした。目を閉じて痛みをやり過ごす、そんな中で微かに自分を呼ぶ声がする。藤堂の声だ――その声は薄れそうになる意識を呼び戻す。しかし腕を伸ばして藤堂に触れたいと思うのに、痺れた指先はぴくりとも動かない。
「佐樹さん!」
急にドンと身体になにかがぶつかったような衝撃を感じた。それと同時に僕の腕を掴んでいた後ろの気配が消える。けれど重みで身体は揺らぎはしたが倒れることはなかった。瞬きをして目の前を確かめてみると、金髪の男が真っ青な顔をしてこちらをじっと見ていた。男は僕と目が合うと後ずさりをして、足をもつれさせる。そして尻餅をついてその場に倒れこみながらもさらに後ろへと下がっていく。
手には鈍く光るなにかが握られている。
「藤堂?」
少しずつぼんやりとしていた感覚が戻り、やっと自分が抱きしめられていることに気づいた。あんなに冷えていた身体が温かいぬくもりに包まれている。重たい身体を動かして腕を持ち上げると、藤堂が抱きしめる力を強くしてくれた。けれどなんだろう、なにかがおかしい。
「ごめん佐樹さん。巻き込んで」
しがみつくように僕を抱きしめる藤堂を抱きしめ返したその瞬間、手のひらにぬるりと生温かい感触がした。その感触に僕は息を飲みこんだ。
「しくじったな」
聞こえてきた言葉の意味を僕はすぐに理解できなかった。先ほどまで僕を捕まえていた眼鏡の男が、ため息を吐き出しこちらに背を向け歩き出した。金髪の男はまだ腰を落としたまま動かない。もう一人の男は先を歩く眼鏡の男に付き従うように歩いていく。
「藤堂!」
そうだ――なにかがぶつかるような身体の衝撃は藤堂が僕を抱きしめたからだけじゃない。動きの鈍かった頭の中が急速に動き出す。そして目の前で起きていることがようやく頭の中で結びついた。
力なくずるりと下へ落ちていく藤堂を抱き支えながら、ゆっくりと膝をついてその身体を横たえる。
「藤堂、しっかりしろよ!」
目の前の出来事に声が震えた。真っ白なブレザーの右脇腹がじわりじわりと赤く染まっていく。
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