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第899話 別離 1-2

 手のひらで抑えても血は溢れるばかりで止まることがない。とっさに携帯電話を探して上着のポケットを探すが、自分のものはここに連れてこられる前に落としたことを思い出した。しかし取りに戻る余裕はない。藤堂のものはないかとブレザーを探れば、右のポケットに携帯電話を見つけた。 「こういう時はどこに電話すればいいんだっけ」  手についた血を上着やズボンで拭って携帯電話を開く。けれど頭の中が真っ白で指が動かない。心拍数もいままで感じたことがないくらい早くて、ドクドクと心臓は耳元で聞こえるほどに強く早鐘を打っている。落ち着けと何度も繰り返し呟く口も渇いてカラカラだ。それでもなんとか震える指先で一、一、九とキーを押した。  その後、救急車は消防署が近かったのか、思った以上に早く公園に到着した。そして藤堂は救急車の到着後すぐに手術が可能な近くの病院へと搬送される。そして走り去る赤いランプを見送りようやく息をついたあと、僕はその場にへたり込んでしまった。 「そういえば、僕も怪我したんだった」  気が抜けたら腕の痛みを思い出してしまった。さっきまで忘れていたのに、思い出した途端に痺れるような痛みが走る。スーツの右袖は僕自身の出血で赤黒く染まっていた。腕から伝い落ちた血が手のひらにたまる。 「大丈夫ですか?」  痛みで気が遠くなりそうになったところで、警察の人が僕の青白い顔と冷や汗に気づいたのか、慌てて声をかけてきた。いままで腕の血は藤堂の返り血だと思われていたのだろう。しかし自分のいまの姿を見てそれも納得できた。スーツの上着やズボンはいたる所に血がついていて、もはや誰のものかわからない。 「急いで車まわします」  救急車は先ほど出発したばかりだ。このまま待っては出血多量になると判断した警察の人は、僕をパトカーに乗せて病院へと急いでくれた。そしてこの辺りで一番近い夜間救急がある病院へ僕は向かうことになった。

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