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第900話 別離 1-3

 車の中、痛みとめまいで意識がぼんやりとしながらも、ずっと僕の頭の中は藤堂のことばかり。真っ白なブレザーが溢れる血で赤く染まっていくのが本当に怖かった。このまま彼を失うことになったらと思えば、息が止まりそうなほど苦しくて。世界が真っ暗になってしまいそうだった。 「西岡さん、しばらく痛みが続くと思いますが、無理をしなければ完治します。お大事にしてください」 「ありがとうございます。あの、僕と一緒だった子がここに運ばれたって聞いたんですが」 「いまはまだ手術中ですが、待ちますか?」 「はい、待たせてください」  僕が診てもらったその病院は、運がいいことに藤堂が搬送された病院だった。看護師さんに待合室に案内してもらい、赤い光が灯る入り口をじっと見つめた。どのくらいの怪我だったのか、詳しくはわからない。けれど時間はかかるだろうと言われた。  ただ扉を見つめることしかできないのがもどかしい。しんと静まり返った待合室にいると数秒数分がずっと長いもののように感じる。長椅子に腰かけてため息と共に俯くと、赤黒く汚れたズボンが目に留まる。それを見た瞬間、胸が鷲掴まれたみたいに痛くて、ひどく苦しくなった。  救急車が到着するまでのあいだ、ずっと握っていた藤堂の手が冷えていくのを感じた。血の気の引いた横顔を見つめながら、泣き出してしまいそうにもなった。いまだって喉が熱くて気を緩めたら込み上がってくる感情に負けてしまいそうだ。どうしてこんなことになったのだろうと、そんな思いばかりが心の中で膨れ上がる。 「佐樹!」 「え?」  静かだった空間に靴音が響き、急に名前を呼ばれた。驚きで肩を跳ね上げながら、顔を上げて声がしたほうへ視線を向けると、薄明かりの中に人影が見える。 「明良、なんでここに」  蛍光灯の明かりに照らされたその姿を見て思わず声が大きくなってしまった。しかしこちらへ駆け寄ってきた明良は僕の驚きなど目に入っていないのか、切羽詰まったような様子で僕の肩を掴んだ。突然現れた明良はうな垂れるように頭を落として大きく息を吐いた。

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