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第901話 別離 1-4
「お前からの連絡に気づいて駅に行こうとしたら公園にパトカー止まってるし、お前はいくら電話しても出ないし。嫌な予感がしたから電話しまくったら警察が電話に出るから、心臓が一瞬止まったぞ」
いつもより早口な明良は少し息が上がっているような気がした。そういえば僕の荷物などはどうしたんだろう。警察が電話に出たということは道で拾われて保管されているのかもしれない。けれどいくら警察でも着信があっても普通は出ないだろう。ということは思わず出てしまうほどに明良は電話をかけ続けていたのか。
「悪い、心配かけて。お前に連絡がつくまで駅で待てばよかった」
わざわざ明良は帰り道が心配だからと駅まで送ってくれたのだ。それなのに僕は軽率に一人で道を戻ってしまった。藤堂も心配してくれたのにあと少しが待てなかった。でもどうしてもあれを早く見つけたかったんだ。
「怪我したんだって? 大丈夫かよ」
「うん、僕は大丈夫だ」
右の肘から手首にかけて刃物で傷つけられた。けれど針でだいぶ縫う羽目にはなったが、後遺症になるような可能性はほとんどないだろうと言われた。いまは三角巾で吊り上げているので見た目には痛々しいが、安静にしていれば二、三週間ほどで傷も塞がるだろうとのことだ。
「ほら、これ探してたんだろ」
労るように僕の頭を撫でた明良は、上着の内ポケットから革張りの小さなキーケースを取り出した。
「あ、よかった! お前の家にあったんだな」
思わず僕は飛びつくように差し出されたキーケースを掴んでしまった。あまりにも必死に僕がキーケースを握り締めるので、明良は少し呆れたようにため息をついてそれを開いてくれた。
「これもきちんとあるから安心しろよ」
キーケースに収められていたのは銀色のボールチェーンに繋がれたシルバーリングだ。
いつも身につけていることができないからと、こうしてキーケースに入れて持ち歩いていた。普段は鞄にしまっていたのに、鞄を開いた時に見当たらなくて焦ってしまったのだ。けれど優先すべきことを間違えた。こんなことになるなら藤堂の言葉に従えばよかった。
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