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第903話 別離 2-2
車の中で聞いた話では、藤堂を追いかけてきたのだと言っていた。藤堂のところでなにがあったかまでは聞いていないが、警察が出てくるくらいだ、なにか事件性のあることだろう。藤堂の身近にいる人物でそれを引き起こす可能性があるのは彼の母親か。
そういえば携帯電話を探していた時、藤堂の着ていた制服のポケットに写真が入っていた。しわくちゃになったあれは、見間違いでなければ僕の写真ではなかっただろうか。なぜ僕の写真を持っていたのだろう。僕のもとに送られてきていた写真は、藤堂の母親がやはり関係しているのか。
「西岡さん、今回の事件について少しお話を聞かせていただきたいのですが」
この二人はどこまで情報を持っているのだろう。藤堂と僕の関係性には気づいているのだろうか。黙っていても事件となればいずれ調べあげられるのは想像できる。けれどいま余計なことをしゃべってしまいたくない。なんと答えたらいいのだろう。焦りが胸の中で広がり手のひらに汗がにじむ。
「いまじゃないと駄目ですかね」
「え?」
「それって事情聴取ですよね。こいつもまだ気が動転しているし、もう少し落ち着いてからにしてやってくれませんか」
返す言葉が見つからずに言葉を詰まらせていたら、明良が一歩前へ足を踏み出し僕を背にかばうようにして立った
「日を改めることできませんか」
物腰は丁寧だけれど明良の声はどこか有無を言わせない強さがある。そのまっすぐな視線と言葉に、目の前の二人は少し苦々しい表情を浮かべた。任意の事情聴取は強制することができないからだろう。
「わかりました。ですが、できるだけ早くお話を伺いたいと思っています。そうですね、落ち着きましたら署のほうへご一報を願えますか」
しばらく二人とも難しい顔をしていたけれど、手前に立っていた野崎さんがため息を吐き出しながら僕のほうへと歩み寄ってきた。そして懐に手を差し入れると名刺を取り出す。その動作につられるようにして立ち上がった僕は、目の前に差し出されたその名刺に視線を落とした。
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