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第904話 別離 2-3

 左手を持ち上げて名刺を掴むと、そこに書かれた文字をじっと目で追う。そして僕は少し首を傾げてしまった。そこに書かれている警察署はこの近くではない。それに気づいた僕の中で仮説が立てられる。  いま僕が想像している通りであれば、藤堂の母親がこの地区でなにか事件を起こしたのだろう。さらに僕と藤堂が起こした事件まで彼らが取り調べるのであれば、それと今回のことは関連性があるということだ。そこまで考えて嫌な予感がした。もしかしたらもうすでに僕と藤堂のことは知られているかもしれない。 「おい、館山」  俯いたまま考え込む僕をよそに、野崎さんは振り返って片手を上げた。 「西岡さん、これはあなたの荷物ですよね」 「あ……はい、ありがとうございます」 「念のためあとで中身は確認しておいてください」  後ろに控えていた館山さんがこちらに歩み寄り僕に鞄を差し出してきた。それを受け取って頭を下げると、二人はなにも言わずに僕と明良に軽く会釈をしてこちらに背を向ける。遠ざかっていく二つの背中を見つめて、思わずほっと息を吐いてしまった。いま深く追求されたらうまく話せる自信がなかった。  けれど与えられた時間はいまだけだ。ほんの少しだけ猶予を与えられたに過ぎない。ことの詳細はまだ見えてきていないが、間違いなく僕は藤堂の母親に関連する事件に巻き込まれている。そしてそれは僕と藤堂の関係を明らかにしてしまうものに違いない。いつまで藤堂とのことを誤魔化せるだろう。  いや、ここはもう覚悟を決めたほうがいいかもしれない。警察に介入されて誤魔化しが通じるとは思えない。

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