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第907話 別離 3-2

 それならばほかに知っている人を探すよりも、連絡を取って本人に聞いたほうが早そうだ。しかしそう思っていたら、なにかを思い出したように彼女はベッド脇にあるサイドボードに手を伸ばした。 「……あ、関係あるかわからないけど、昨日の術後にあなたを見舞っていた人がこれをね、置いていったらしいわよ。はい、これ」  差し出されたのは折りたたまれた紙だ。手帳かなにかを切り離したものだろう。四つ折りになったそれを開くと短い文章が綴られていた。その文面を読むと先ほどからずっと落ち着かなかった気持ちが、少しだけ収まった気がした。  紙には佐樹さんは腕の治療を受けて無事であること、近いうちに見舞いにくることが書かれている。確か彼は利き腕を怪我していたので、これは誰かが代筆して書いたものだろう。とりあえずの無事が確認できた。あとは声でも聞けばもっと安心できるかもしれない。 「どのくらいで退院できますか」 「あとで先生から詳しい話を聞くと思うけど、少なくともひと月は様子見ることになると思うわよ」 「ひと月、ですか」  容態次第では早く退院できるだろうか。いつまでもこんなところで寝ているわけにはいかないだろう。怪我人が二人も出たのだからこれは事件として扱われる。それに警察が部屋にあった写真を見ていれば、あいつの事件と佐樹さんの事件の関連性も疑われるに違いない。このままでは佐樹さんの身の回りになにか影響が出る可能性もある。俺との関係が明るみに出れば警察にも学校にも追求される。彼から周りの意識を引き剥がせる方法はあるだろうか。 「あの、電話をかけたいんですが構いませんか」 「ちょっとだけよ? まだ絶対安静なんですからね。はい、これ充電あるかしらね」  サイドボードの上にあった携帯電話を俺に渡すと、看護師は検温などを済ませ部屋を出ていった。目が覚めたことを医師に伝えに戻るのだろう。

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