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第909話 別離 3-4
「ようやく彩香さんも離婚に頷いてくれたよ」
「あんたは最低の人間だ。自分の物欲のために他人を傷つけることも厭わない」
「隆道は君に対する親権は放棄するそうだ。君を引き取る気はないらしい。彩香さんはしばらくは入院生活だろう。そんな君がこれからどこへ行くのか、頭のいい君ならわかるだろう?」
川端の言葉に胃が引き絞られるような思いがした。こんなにも人が憎らしいと思ったのは初めてかもしれない。淡々と言葉を吐き出す川端に視線を向ければ、どこか薄笑いを浮かべるようなそんな顔で俺を見ていた。
普通に考えて精神衰弱状態のあいつに俺を育てる力はなく、親権が渡ることはないだろう。けれど父親が俺を引き受けることを拒否している以上、離婚が成立しない。しかし父親は早い離婚を望んでいるのだろう。そしてこの状況下で俺の行く先と言えば、目の前に一つしかない。
だが、それに頷くことはいまの俺にはできそうにない。この男は佐樹さんを陥れ傷つけた人間だ。そして他人を人とは思わない腹の黒い男だ。
「帰ってください」
「結果は一つしかないと思うといい。君が選ぶ権利はないのだよ」
「帰ってください!」
声を上げた俺にやれやれとでも言いたげに肩をすくめた川端はこちらに背を向けた。
「入院の保証人には私がなった。これから彩香さんの代わりは私が務めるからそのつもりでいるといい。早くよくなってくれよ」
どこまで人を追い詰めれば気が済むのだろうか。自分の無力さ加減に腹が立って仕方がない。なぜ自分はまだ子供なのだろう。悔しいという感情が胸の中を支配する。しかしいまここで毒づいていても仕方がない。なにか別な方法はないか考えてみよう。
閉じられた扉を見つめながら手の中にある携帯電話を強く握りしめた。
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