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第910話 別離 4-1

 できるだけ自分の力でなんとかしたいのが本音だが、俺一人でできることなどたかが知れている。あと二年、いやせめてあと数ヶ月先であったならもっと自由になれたのではないだろうか。そんな風に思ってしまう自分がいる。  いつだって俺は自分の無力さを思い知る。あの人を守りたいと思いながらも、なに一つうまくできない。他人の力にねじ伏せられて、無様にあげくしかできない。そんな自分が心底嫌だと思う。 「充電器、買わないと駄目か」  いま頼りになりそうな人物へ電話をかけようと思ったが、充電の残量があまりなかった。仕方なく要件のメールだけ済ませてため息を吐き出した。財布は確かズボンのポケットに入っていたはずだ。だが手術後すぐに車椅子を使わせてはもらえないだろう。買ってきてもらうことはできるだろうか。このままだと夕方には充電がなくなりそうだ。  会う前に佐樹さんの声だけでも聞きたいと思っていたが、電源の確保ができるまで無理そうだ。見舞いに来てくれるほうが先かもしれない。 「早いな」  送信して十分ほど過ぎるとメールに素早く返信が来た。そのメールは長文だが簡潔に俺たちの事件についてまとめられていた。二つの事件はほかに大きな事件が重なり大きく報道はされていないようだ。特にあいつが起こした事件は名前を連ねる会社からの圧力を受けて、今後も取り上げられる可能性はないだろうとのことだった。そして一番気になっていた佐樹さんの名前は公表されていないらしい。どうやら事件に巻き込まれたのは俺一人になっているようだ。  鳥羽からのメールに目を通して俺は息をついた。 「情報が早くて助かる」  また新たな情報が入ったら連絡が欲しいと、礼を含めて返信を返す。メールには後見人や離婚についても調べておくと追記されてはいたが、こちらはあまり期待はしないで欲しいとあった。やはり資産のある親族が後見人に名乗り出れば、自ずとして結果は見えてくるか。 「まあ、いい。もしもの時は腹をくくる」  そんなことより佐樹さんにメールだけでもしてみようか。電話ができなくても目が覚めたことくらいは伝えられる。そう思いアドレスを探して受信欄をさかのぼっていると、一通のメールを受信した。

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