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第912話 別離 4-3

「いいえ、俺がもっと早くに気づいていれば、こんなことにはならなかった。あいつの言葉を鵜呑みにしてしまったから、気づくのに遅れたんです」  創立祭の前、まだ佐樹さんのことまで調べ上げていない口ぶりだった。でも届いた写真はそれより前のものもあった。ということはすでにもうたどり着いていたんだ。猶予を与えるようなことを言っていたけれど、いつでもあいつは俺の首を絞められる状況だった。  なぜ俺に時間を与えたのか、それはわからないけど。もっとあいつの様子をしっかりと見ておけばよかった。 「藤堂、お前はすぐになんでも自分で背負い込もうとする。お前だけが悪いわけじゃない。それを言ったら、今回のことは僕の不注意で起きたことだ。お前が自分を責めることはない。僕が悪かった。ごめんな。でも、お前が目を覚ましてくれてよかった」 「俺も、佐樹さんが無事でほっとした」  大きな怪我をさせてはしまったが、彼にもしものことがなくて本当によかったと思う。そうでなければ俺が正気でいられる自信がない。 「僕なんかより、お前のほうが大変だったんだぞ。まさか電話が来ると思わなかったからびっくりした。具合は大丈夫なのか」 「残念ながらいまはベッドからほぼ動けない状態ですけどね。話では全治一ヶ月といったところらしいです」 「一ヶ月か。けど急いても仕方がないし、いまはゆっくり治すことに専念しろよ。なるべく会いに行くから」 「佐樹さん、学校は?」  腕以外は支障はないとしても怪我をしたのは利き腕だ。痛みなどもあるだろうし動かすのも困難に違いない。そんな状況で授業などできるのだろうか。 「うん、二週間くらいは安静にって言われているから、休みになるかな。それ以降は少し相談になると思う。早く筆記具が持てるようになればいいんだけど」 「無理しないでくださいね」 「大丈夫だ。母さんも数日こっちに出てきてくれるって言っていたから」 「そうですか」  真面目な人だから後ろめたさを感じて無理しなければいいのだが、傍にいて見ていられないのが少し悔しい。でもお母さんが来てくれると言うのならば身の回りの心配はいらないだろう。

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