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第913話 別離 4-4

「藤堂のところは大丈夫か?」 「え?」 「身の回りのこととか入院中に色々あるだろう」 「ああ、そうですね。あんまり考えてなかったけど、あずみと弥彦のところにでも頼もうと思います」  ほかに自分の身の回りのことを頼めそうな相手もいない。それにあの二人に頼んでおくのが一番話が早いと思う。弥彦の父親とあずみの母親にも面倒をかけることになるかもしれないが、今回ばかりは頼らせてもらうほかないだろう。  できるだけ川端の世話にはなりたくないが、とりあえず金銭面は腹をくくろう。それに入院費くらいなら貯金でなんとかなるはずだ。 「あ、電話の充電がそろそろなくなりそうなので」  耳元に充電残量がなくなったアラート音が聞こえてきた。まだもう少し声を聞いていたいが、どうやらここまでのようだ。 「そうか、わざわざ電話ありがとうな」 「佐樹さん」 「ん?」 「俺とのことを聞かれたら、なにもないって言ってくださいね」  伝えておきたかった言葉を告げると、電話の向こうで息を飲む気配を感じた。昨日の今日だ。いまはまだ警察の事情聴取は受けていないのだろう。でも必ず俺とのことを聞かれる時は来るだろう。  事件の原因を突き詰められれば、なぜあいつが佐樹さんに手を出したのか。それを知られることになる。だけど佐樹さんの気持ちをほかの誰かに知られるわけにはいかない。 「藤堂、それは」 「約束してください」  少し戸惑ったような気配を感じる。けれど俺は念を押すように約束を持ちかけた。 「……わかった」  逡巡するように佐樹さんは返事を躊躇っていたが、ようやく言葉を紡いでくれた。その言葉に俺は安堵の息を吐き出した。  それから少しだけ言葉を交わし、名残惜しい気持ちで通話を切った。そしてしばらく俺は充電のなくなった携帯電話を見つめた。

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