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第914話 別離 5-1

 電話口で言葉を交わしてから時間は流れて、早くも二週間が過ぎようとしていた。担当の医師の話によると、藤堂の怪我は順調に回復しているようだ。このまま行けば予定通りにあと半月くらいで退院できるだろうという話だった。休みを利用して毎日のように見舞いに来ていた僕は、藤堂が回復する様子を傍で見ながら胸を撫で下ろしていた。  現場では出血が多くて、見ている自分のほうが心臓が止まってしまいそうな思いをした。けれど病院への搬送が早かったので大事には至らなかったようだ。 「藤堂、起きてるかな」  左手に土産のぶどうが入った袋をぶら下げて、僕は藤堂のところへ向かっていた。いつものように病院の自動ドアをくぐり抜け、中に足を踏み入れると待合所にたくさんの人がいる。ここはこの辺りでも大きい病院なので毎日人の出入りが多いようだ。 「今日はどうかな」  上階に向かうエスカレーターに乗りながら、僕は思わず呟いてしまった。怪我の具合は順調で、よほどの無理をしなければ心配ないと言われている。なので心配している藤堂のは怪我のことではない。心配なのは藤堂の様子だ。  なに気なく時間が流れていく中で、僕は藤堂の様子に異変を感じ始めた。初めのうちは気のせいかとも思っていたが、次第に気のせいなどで済ませられる状況ではないことに気づかされる。  入院当初はよく話をしてくれていたのに、最近ではすっかり言葉数も減って笑みを浮かべることもあまりなくなった。そしてなんだかいつも考え込むようにして、話しかけても上の空になることが増えたのだ。  いつも人に気遣いをする藤堂からすると、考えられない反応だ。 「藤堂が悩むことってなんだろう」  なにかを思い悩んでいるのはなんとなく雰囲気で感じ取れる。しかし藤堂がなにも言ってくれない状況では一緒に考えてあげることもできない。

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