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第915話 別離 5-2

 そもそもいま藤堂が傍にいることを望んでくれているのか、それさえもわからないくらいだ。もしかしたら一人になりたいと思っているかもしれない。けれどそうは思うものの、藤堂のことが気になって病室に足を向けてしまう。 「藤堂、具合はどうだ」  いつものように病室にやってきた僕は、ベッドに横たわる藤堂に話しかけた。けれどそれに今日は返事はなかった。 「寝てるのか」  どんな状況でも人を無視するようなことはしない藤堂だ。寝ているのだろうと思い、僕は持ってきたぶどうに視線を落とすとそれを洗いに給湯室へと向かうことにした。  そういえば近頃は言葉を交わすこともかなり少なくなった気がする。ぼんやりしている藤堂は、時々思い出したように僕を振り返って申し訳なさそうに謝る。けれど時間が経つとまたなにやら考え事をし始めて上の空になってしまうのだ。  一度なにかあったのかと聞いてみたこともあるが、曖昧に濁され答えてはもらえなかった。二人の時間が増えて距離は近くなったはずなのに、いまだに自分一人でなんでも抱えてしまう癖があるのだなと、その時はすごく寂しくもなった。もっと僕に頼ってくれればいいのにとそう思わずにいられない。 「僕にできることはないのかな」  思わず大きなため息がもれてしまう。しかし藤堂が頑なに自分の中に押し込めようとする時は、なにかを消化しきれない時だ。それは誰かに話して楽になるようなものではないことが多い。  そういえば藤堂の様子がおかしくなったのはいつくらいからだっただろうか。まだ最初の数日くらいはそんなに暗い顔を見せることはなかった気がするのだが。なにが原因なのだろう。 「また様子を見て聞いてみるか」  いまは言いたくないかもしれないが、落ち着いたら話してくれるようになるかもしれない。 「……ねぇねぇ、個室の優哉くんのところ」  ため息交じりに給湯室でぶどうを洗っていたら、ふいに人の話し声が聞こえた。その会話に含まれていた名前に僕は思わず反応してしまう。

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