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第917話 別離 5-4

 十八歳になったとはいえまだ藤堂は未成年だ。大人の都合でいくらでもその身を振り回されるだろう。どれもこれも想像の域を出ないが、藤堂が窮地に立たされているのはなんとなくわかった。  立ち話をしていた看護師たちがいなくなったのを見計らい、急いで僕は藤堂の病室へと向かうことにした。 「あれ? 誰かいる?」  病室の前まで来て中に誰かいることに気がついた。藤堂の声ではない誰かのものが聞こえる。いったい誰だろうかと扉の前で足を止めた僕は、先ほど看護師たちが言っていた言葉を思い出す。 「そういえば、いまも来てるって」  だとすると中にいるのは藤堂の父親か。彼を残して出て行ってしまったというその人は、いったいどんな人なのだろう。しかし気にはなったがいきなり部屋に立ち入るのも気が引ける。しばらくその場に立ち、耳を澄ませてみることにした。 「頼む、優哉! 一生の願いだ!」  じっと耳を傾けていると、中から時折声がもれ聞こえてくる。その声はどれも一方的なものばかりだった。藤堂の声は聞こえない。何度も聞こえてくるのは「別れさせてくれ」、「頷くだけでいい」そんな言葉だ。 「兄さんの養子になれば、この先の人生食うに困ることはないだろう! お前にだって条件のいい話じゃないか!」  容赦なく藤堂に吐き出される言葉はあまりにもひどい。それは自分たちにとって都合のいい話であって、藤堂自身が望んでいることじゃない。それなのにさもそれが藤堂のためであるような言い方。どうしてそんな勝手なことが言えるのだろう。  藤堂はいつだって両親の身勝手な感情に振り回されて傷ついてきた。すべてが藤堂のせいみたいに全部押しつけて、自分たちばかりが被害者のような顔をする。藤堂がどんな痛みを抱えてきたか、きっとそんなことすら考えもしないんだ。胃の辺りがカッと熱くなり、気がつけば僕は戸を大きく開いていた。

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