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第919話 別離 6-2

 人の愛情はそんなに軽薄なものなのだろうか。親も一人の人間。確かにそうだ。それでも目の前で苦しんでいる子供を見て、さらに傷つけるその神経がわからない。 「藤堂、お前の様子が最近おかしかったのって、さっきの人のせいか」 「……すべてではないですけど、考えることは多かったかもしれません」 「少しは頼れよ」  藤堂が困っているなら、苦しんでいるなら一緒に考えるのに、どうしてこの手は僕にすがってはくれないのだろう。触れられていた手を握り返すと、僕は藤堂の瞳をじっと見つめた。まっすぐに覗き込んだその目は、少し戸惑うように揺れていた。 「すみません」 「謝るなよ。余計に寂しくなるだろ」  俯きがちな藤堂の視線を引きつけたくて、繋いだ手をもう片方の手で握りしめると、ゆっくりと引き寄せて指先に口づけた。 「なあ藤堂、行き先がなくて立ち止まっているなら、僕の家族になればいい」 「え?」 「西岡の籍に入ってもいいし、僕の籍に入ってもいい。それなら行きたくないところへ行かなくて済むだろう」  どちらも簡単ではないがそう難しいことでもない。藤堂が躊躇っているなら、この二つを選択肢に入れてもいいんじゃないだろうか。 「それは、考えてなかったですね」 「これじゃあ、駄目か?」 「……駄目ではないです。駄目ではないですが、少し考えさせてください」  しばらく考え込むように目を伏せた藤堂は、僕の視線に気づくと少し困ったように笑う。ずっと思い悩んでいたくらいだから、なにかほかにも方法があるのだろうか。もしそうならば無理に押し進めることできない。小さく頷いてみせると藤堂は安心したような表情を浮かべた。 「佐樹さん」 「ん?」 「ありがとう」 「うん」  それからしばらくは重たい話題を避けて、二人で他愛のない話をして時間を過ごした。久しぶりに藤堂が笑っている姿を見られて少しほっとした気分になった。

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