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第920話 別離 6-3

 けれどいつになったら藤堂は大人たちの都合に振り回されることなく過ごせるようになるのだろう。早く周りにある問題が解決すればいい、そう思わずにはいられなかった。 「あ、そろそろ帰るな」 「ああ、もうそんな時間なんですね」 「ちょっと今日は来るの遅かったからな」 「いつもすみません」 「いいんだ、好きで僕は来てるんだから」  時計の針は気づけば十五時を回っていた。最近は学校の生徒たちが見舞いに来ることもあるらしいので、鉢合わせないように僕は早めに帰らなくてはいけない。藤堂と同じく学校を休んでいる僕が見舞い来ているのが知れたら、間違いなく疑問に思われてしまうだろう。余計な詮索をされても返答するのに困る。 「佐樹さん」 「なんだ?」  先ほどまでとは違う少し緊張感を含んだ声が僕を呼ぶ。その声に帰り支度をしていた僕は動きを止めて藤堂を振り返った。どうしたのだと問いかけたいのに、まっすぐと僕を見つめる藤堂の瞳に言葉が詰まってしまった。 「佐樹さん、俺がいなくなったらどうしますか」 「え?」 「俺がいなくても待っていてくれますか」  どういう意味だろう。これはなにかの例えなのだろうか。それとも本当に藤堂が僕の目の前からいなくなるということなのか。そこまで考えて胸が締め付けられるほどに痛んだ。藤堂がいなくなることなんて想像しただけでも怖くて、辛い。また消えて失ってしまったら、僕はきっと耐えられない。けれど待っててもいいならいくらでも待つ。それで藤堂がまた隣に立ってくれるなら。 「すみません。なんでもないです」  僕の返事を待たずに藤堂は言葉を打ち消した。けれど僕の中にはもうその答えは浮かんでいる。 「藤堂、僕は待つよ。お前のことならいつまででも待てる」 「……」  僕の答えに藤堂からの返事はなかった。

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