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第921話 別離 6-4
二人のあいだに沈黙が広がり、僕はしばらく立ち尽くしていたが部屋を出ることにした。目を伏せた藤堂が一人にして欲しいとそう言っている気がして、とどまることができなかったのだ。本当はもっと話を聞きたかったけれど、いまは聞いて欲しくないのだと思った。
きっと呟かれたあの言葉は藤堂の弱音と本音なのだと思う。けれどまだ心の中で整理のつかない部分なのだろう。おそらく彼自身答えが定まっていない。でも思わず言葉にしてしまったんだ。
「もう少し待とう」
なにかを思い悩んでいる藤堂。彼の答えがどんなものになるかわからないけれど、僕ができることは紡ぎだされるその答えを待つことだけだ。それにいままでだってずっと待ってきたじゃないか。そして藤堂はちゃんと僕のところへ戻ってきてくれた。
だからきっと今回も大丈夫だ。いまは色んな悩みがあるかもしれないけれど、いつかそれも解決するはず。それは僕の強がりなのかもしれないが、そう思っていないと不安に押しつぶされそうになる。
「でももし離れ離れに、別れてしまうようなことになったら、その時はどうするだろう」
深く考えたことはないけれど、もし万一そんなことになったら僕はいったいどうするだろう。そこまで考えてまた胸が痛くなった。自分で思っている以上に僕の中で藤堂の存在は大きい。一度手に入れたぬくもりはそう簡単に手放せはしないのだ。
いまの不安定な藤堂を見ていると、本当に目の前から消えてしまいそうで。別れてくれなんて言われたら、きっと息の根が止まってしまう。
「いまは考えるのはやめよう」
藤堂はいなくなったら――と言ったのだ。まだ別れようと言われたわけではない。どうにも頭の中が先ほどから後ろ向きになっている。首を左右に振ると僕は心の隅に引っかかっているものを振り払った。そして想像して落ち込むのは無意味なことだと言い聞かせると前を向いた。
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