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第924話 別離 7-3

「大丈夫ですか」 「は、はい、大丈夫です」  駄目だ。見た目も驚くほどに似ているが、声のトーンや話すテンポまで似過ぎていて、声をかけられると藤堂と話しているような気分になる。大人びた見た目と耳障りのいい優しい声音――視覚と聴覚のギャップで胸が変にざわめいてしまう。藤堂ではないと、違うとわかっているのに、僕は彼の雰囲気に飲まれそうになっていた。 「もしよければこちらをどうぞ」 「あ、すみません」  自分の落ち着きのなさに戸惑っていると、近くの自販機で買ったのか、缶のホットミルクティーを差し出される。慌ててそれを受け取ったら手のひらにじんわりと温かさが広がった。 「病院の帰りですか?」 「えっと、見舞いなんですけど」 「そうでしたか」  僕を見下ろすその人は、小さく首を振った僕を見て至極優しい微笑みを浮かべる。やはり病院帰りの患者と間違われていたかもしれない。そんなに僕は具合悪そうな顔をしているだろうか。しかし正直言うと少し藤堂のことで落ち込んでいたかもしれない。この先、万一にでも別れ話をされたらと、想像して一人勝手に寂しくなっていた。 「すみません紛らわしくて」  だから思わず立ち止まってしまったのだろうか。この人の声や眼差しがあまりにも優しいから、藤堂のことを重ねて、またこんな風に笑ってくれればと思ってしまったのかもしれない。  ああ、どうしよう――胸が痛い。思っている以上に藤堂のことを不安に思っていたのか。隣に立っているはずなのに見えない藤堂の心の中。それがわからなくて不安で仕方がなかったのか。自分がこんなにも弱っていたなんて思いもしなかった。 「見舞われてる方のお加減がよくないのですか?」  思わず泣きそうになってしまったが、心配げに覗き込まれてその目をじっと見つめ返してしまう。小さく首を傾げて僕を見つめる優しい瞳。その目に少し喉が熱くなったけれど、それを飲み込んで僕はゆるりと首を横に振った。

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