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第931話 別離 9-2

「今日はどんなお話ですか」  部屋につき二人をリビングに通すと、僕はお茶を淹れるべくキッチンに立った。そしてソファで並んで座る二人に話を切り出した。ここまで来るあいだに色々と考えたが、聞かれることはもうあと一つしかない気がする。ほとんどのことはもう答えてきたし、それ以上のこともない。  それは僕にとってできるだけ避けたい話題だ。 「事件以来、身辺にお変わりはないですか?」 「え? 身辺?」  てっきり藤堂のことを聞かれるのだろうと思っていた僕は、心の準備をして身構えていた。しかし実際は想像しているのとはまったく違うことを聞かれる。それは少し予想外のことだったので、思わず聞かれた言葉を聞き返してしまった。 「現場を立ち去った二人はまだ身柄確保できていません。なにもなければいいのですが」  問いかけられた言葉の意味を飲み込めずにいると、野崎さんが言葉を補足するように答えてくれた。その言葉で僕は忘れかけていたことを思い出す。 「ああ、そうでしたね」  藤堂を刺した仁科という男は逃げ遅れて現場ですぐに逮捕されたが、先に姿を消した二人の足取りはいまだつかめていないらしい。警察の調べで判明しているのは三人が暴力団の関係者だということ、彼らが今回も含む四件の事故、事件に関わりがあることだ。それ以外の情報はいまのところ聞かされていない。 「下っ端の仁科とは違い、残りの二人はヘタを打つ真似をするとは思えませんので、心配はいらないと思うのですが。念のため気をつけていてください。一応こちらでも住宅近辺の巡回は増やすよう依頼しています」 「……ありがとう、ございます」  できればずっと忘れていたかった出来事だが、そうもいかないようだ。あの日のことを思い出すといまだに震えが止まらなくなる。事件のあと、腕の痛みが続いた数日は夢に見て毎晩うなされたほどだ。あの時あの瞬間、自分は殺されるかもしれないと本気で思った。

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