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第932話 別離 9-3
あの二人がまた現れる可能性は低いが、まだしばらくは野崎さんの言うように身の回りに気をつけていたほうがいいのかもしれない。
「それと写真が送られてくるようになった時期はいつ頃ですか」
「時期、ですか。いつだったかな……確か、八月半ば頃だと思います」
最初に写真が届いた時は母親が荷物を受け取っていて、しばらくそれに気がつかなかった。でも夏休みに帰省する前、母親が実家に帰った時だったから八月で間違いないだろう。
「八月ですか」
「時期とかもなにか事件に関係あるんですか?」
写真の出処は藤堂の母親であることは藤堂からも聞いている。野崎さんの話では写真は僕だけじゃなく、藤堂の母親に襲われた女性にも送られてきていたようだ。夏頃から様子がおかしいことも聞いていたから、事件の発端は藤堂や夫に執着し過ぎての凶行とかそういうことなのかと思っていた。
「いま事件を洗い直していまして、ほかにも犯人がいる線が浮上しているんです」
「え? ほかにも犯人がいるんですか?」
思わぬ言葉に少し声が大きくなってしまった。慌てて咳払いで誤魔化すと、淹れたお茶をお盆に載せて僕はリビングに足を向けた。
「今回、藤堂彩香は二つの事件を起こしましたが、西岡さんの事件は容疑者の精神状態から一人で計画や犯行は行えないだろうという結論が出まして」
「そう、なんですか」
テーブルに湯呑みを置きながら、僕は少し考えてしまった。藤堂の母親は確かに精神状態はかなり悪かったと聞いている。だから藤堂も母親のことをはっきりと疑えずにいた。しかしいくら考えてみても、藤堂の母親以外に僕は恨まれるようなことはしていないと思う。ほかにいるという犯人は協力者ということなのだろうか。
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