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第933話 別離 9-4

「そういえば、僕の事件と言いましたが、今回の事件に僕の名前がないのはなぜですか?」  事件後に新聞を読んだら小さな記事が載っていた。公園で男子高校生が刺されたという事件だ。しかしその記事を詳しく読むと、なぜか被害者である藤堂が通り魔的に被害にあったということになっていた。そしてそれだけではなく僕の存在がないものになっていたのだ。事件の原因になったのは僕だと言うのに、そこだけが切り取られたかのようになくなっている。  色々な媒体を確認してみたがどれも同じような内容、もしくは記事にもなっていない状況だった。 「確かに報道のほうで誤りはありましたが、こちらからも訂正を求める指示は出ていないのでなんとも」  野崎さんは僕の問いかけになんだか歯切れの悪い回答をする。このあたりはあまり口外ができないことなのか。警察が誤った報道を訂正できないとはどういった状況なのだろう。そういったことに詳しくない僕には想像もつかない。けれどふいに野崎さんの隣に座っていた館山さんの身体が前のめりになる。  膝に両手をついてこちらをじっと見つめる視線に、僕は訳もわからず首を傾げた。 「あー、要するに上のほうからの圧力ですね」 「おい、館山」 「本当のことじゃないですか」  言葉を濁し難しい顔をしていた野崎さんだったが、いままで口を閉ざしていた館山さんが突然とんでもないことを言い出すので、慌てたように声を大きくした。けれど眉間にしわを寄せる野崎さんとは対照的に、館山さんは飄々としている。 「え? 圧力?」  館山さんの言葉に驚き過ぎて僕は思わず大きく首を傾げてしまった。まさか僕などの事件にそんな影響力がある人間が関わっていると言うのだろうか。僕は一介の高校教師だ。大それたことには関わりなんてないし、館山さんの言う言葉は簡単には飲み込めないものだった。

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