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第934話 別離 10-1
しばらく固まったように僕は館山さんの顔を見つめてしまった。考えが及ばない話をされて、頭がまったくついていけていない。けれど彼は目の前で肩をすくめるとため息交じりに話し出す。
「この事件に色々と圧力かけられてるんで、ほかの容疑者を探してるんですよ」
「あの、よくわからないんですが、圧力って調べるなと指示が出ているってことですか?」
「簡単に言うと、そういうことですね」
うろたえる僕を見ながら、館山さんは言葉を濁すことなく返事をする。と言うことはこれは正規の捜査ではないのか。だったらこれ以上、僕がこの件で二人に関わる必要はないということだ。しかしまだほかにいる協力者というのはとても気になる。もう一人の容疑者は僕に危害を加えながら、なぜ僕を事件から遠ざけるのか。その理由もできれば知りたい。
けれどふとした疑問が浮かんだ。
「でもいまもこうして捜査を続けているのは、もう一人の容疑者に近づいているからなんですか?」
「ええ、必ず捕まえますよ」
はっきりとした館山さんの返事にますます疑問が湧き上がる。藤堂の母親が起こした事件は傷害事件ではあるが、正直言えばそこまで大きく騒ぎ立てるほどの事件ではない。簡単に言えば痴情のもつれというやつだ。関わりがあるとされている僕と藤堂の事件も、警察がそんなに躍起になるような事件でもない気がする。それなのにここまで力を入れるなんて、別のなにか理由があるのだろうか。
「そんなに大きな事件でもないのに」
「事件に大きいも小さいもありません。今回は運よく死者が出なかっただけです」
「……あ、すみません」
野崎さんの冷静な言葉に我に返った。そうだ、運がよかったのだ。藤堂が無事なのは処置が早かったからだと看護師さんから聞いた。もしあと少し遅かったら、後遺症をもたらすことも考えられた。
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