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第935話 別離 10-2
マスコミに取り上げられることのない事件だったとは言え、藤堂はいまも病院のベッドの上だ。無事に回復してきていたので大事なことを忘れるところだった。
でもこうして警察が手を引かないのは、もう一人の協力者のせいなのだろうか。それは一体どんな人物なのだろう。
「館山、余計なおしゃべりは終わりだ。西岡さんが混乱してる」
「すんません」
「僕のほうこそすみません。興味本位に話を聞こうとしてしまって」
頭を下げる僕と館山さんに目を細めると、野崎さんは小さく息をついてお茶をすすった。
「えっと、今日はお話それだけですか?」
少しばかり気まずい雰囲気になり、僕は話を戻そうと野崎さんに視線を向ける。すると野崎さんはふいに目を伏せ考え込む仕草をした。そしてしばらく沈黙してから、ゆっくりと言葉を吐き出す。
「西岡さん」
「はい」
神妙な面持ちで名前を呼ばれて、思わず背筋が伸びた。少し息を詰めて見つめ返せば、また少し言葉を切る。けれど伏せられていた視線が持ち上がると、まっすぐに僕の目を見据えた。
「事件の発端に関わることです。藤堂優哉くんと、特別な関係にありましたか?」
「……それは」
湯呑みをテーブルに戻した野崎さんは、言葉を詰まらせた僕をじっと見つめる。その眼差しに焦りで心臓が馬鹿みたいに速くなる。これはやはり認めるまで聞かれるのだろうか。しかし藤堂には二人のあいだになんの関係もないと答えて欲しいと、そう言われている。それに僕は了承もしてしまった。ここで容易く頷くわけにはいかない。
「その質問は、答えなくてはいけないことですか?」
「我々はあなたを罰するために聞いているわけではないのです。これは事実確認です」
「すみません」
今更隠しても二人で一緒に写っている写真も見られているだろうし、事件の直前に電話をしていたことも知られているだろう。僕と藤堂が近しい関係だったことはもうきっと聞かなくても知っているはずだ。だからいずれ黙っていられない状況になることも目に見えてわかる。けれどいまは言葉にはできない。藤堂との約束を破るわけにはいかないのだ。
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