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第936話 別離 10-3

「学校のほうで少しお話は伺いました。今年の春頃から親しくされているようですね」 「……学校に、行ったんですね」  警察がやってきて話を聞かれたら、僕たち二人が揃って怪我をしていることになにか疑問を持つかもしれない。付き合っていることまではわからないかもしれないが、一般生徒とは違う特別な間柄なのはわかるだろう。そしてそれを追求されれば、たどり着くのはいま問い詰められている答えと一緒だ。  僕はどんな処分を受けても構わないけれど、藤堂は大丈夫だろうか。卒業まであと五ヶ月もない。藤堂までなにか処分を受けることになったら、ここまで藤堂が頑張ってきたものが全部水の泡になってしまうかもしれない。それだけは嫌だ。藤堂の足枷になるくらいなら、僕はすべてをなくしたっていい。 「藤堂には幸せになってもらいたいんです。ただそれだけなんです。それ以上の気持ちはありません」 「彼もそう思っているんでしょうね。あなたとの関係を何度聞いても、自分の一方的な気持ちであなたには関係ないと言っています」 「そう、ですか」  藤堂も多分きっと僕と同じことを考えている。学校や世間での僕の立場が危うくならないようにと考えているのだろう。お互いが思っていることは一緒なのに、僕たちはどうしても掛け違える。お互いがお互いのために犠牲になろうとしている。  これでは駄目だとわかっているのに、正しい答えが見つからない。僕が藤堂を選んだ時点ですべてがねじれているんだ。本当は手を取ってはいけなかった。せめてあと一年、待たなくてはいけなかったんだ。  でも僕はそれができなかった。藤堂を手放すことができなかった。

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