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第939話 別離 11-2

「中を見ても、いいですか?」 「もちろん」  新崎先生の返事を聞き、僕はゆっくりと封筒に手を伸ばす。持ち上げたそれはとても軽く、封筒の中身は特別なものが入っている様子ではなかった。なにげなくウラ面を見るが、そこに名前は書かれていない。 「失礼します」  封筒の中を覗けば折りたたまれた紙が一枚。それを指先で抜き取り僕は恐る恐るそれを開いた。 「退学、届? ……え?」  開いたそれに書かれていた文字を見て思わず首を傾げたが、氏名欄に記載された名前を見て僕は目を見開いてしまった。予想もしないその名前に紙を掴む指先に力が入ってしまう。 「どうして、藤堂が退学届なんか」  書面に書かれた名前は見間違いようもない藤堂の名前だった。日付は一昨日になっている。速達だからこれが届いたのは昨日か。しかし昨日もその前もそんな話は一言もしていなかったのに、なぜ藤堂は退学届なんかを出したのだろう。 「西岡先生も知らないんですね」 「あ、すみません」  そうか僕が教師の中で一番藤堂と親しくしているから、この届け出の理由を知っていると思ったのか。なんだかなにも知らなかったのがひどく歯がゆい。 「いえ、構いませんよ。昨日の夕方に私も話は聞いてきたのですが、はっきりとした答えは得られなかったんですよ」 「そうだったんですか」  僕に電話をしたあとに病院へ行っていたから、昨日のうちに折り返しの連絡がなかったのか。それにしても藤堂が学校を辞めなくてはならない理由とは一体なんだろう。まだ学校には僕たちのことは知られていないようだし、ことを急ぐ必要もない気がするのだが。それともほかになにか原因があるのだろうか。

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