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第942話 別離 12-1

 僕の返事を聞いた新崎先生は少し言葉に詰まるような、苦しそうな顔をした。十年、僕を見てきた人だから、僕のことはよくわかっているだろう。僕は決めたことを譲らない頑固な性格だ。わかっているからこそ深いため息をつく。 「この仕事に誇りを持ってやっていると思っていましたが」 「もちろんいまもそのつもりです。でもそれを秤にかけた時、僕の中に藤堂以上のものは見つけられませんでした」  悩みはしたが、藤堂を選ぶと決めた時の切り替えは早かったように思う。そうして決めたあとは心の中がすっきりしたのをいまも覚えている。  どんな理由があっても、教師が生徒に手を出すなんてことあってはならない。それを理解してもなお、僕の選択肢は一つしかなかったんだ。 「でもこの写真だけでは、相手が藤堂だということはわかりませんよね」 「そうですね。少なくともこれを見た校長や教頭は気づいていないようです。ですが西岡先生だけが処罰を受けるつもりですか」 「はい、藤堂を選んだのは僕です。待とうと思えば卒業まで待てたのに、それをしませんでした。藤堂のことは不問にしていただけませんか」  まだ藤堂のことが表沙汰になっていないのなら、できればこのままわからないままでいて欲しい。そう願って頭を下げた僕に、新崎先生は困ったようにまた長いため息を吐き出した。 「参りましたね。西岡先生を辞めさせるとなれば藤堂も学校を辞めるでしょう。そのつもりの退学届だと思いますよ」 「藤堂はこのメールに心当たりがあるということですか?」  しかし退学届は一昨日作成されたものでメールは今日届いたものだ。どうして藤堂はこのメールを予期することができたのだろう。 「彼は自分の伯父が西岡先生になにか危害を及ぼすだろうと言っていました。けれどこれの出処がどこなのかはわかりません。実際にそうなのか確かめようがないのです」  出力された紙に視線を落としアドレスを確認するが、それはよくあるフリーアドレスだった。不特定多数が使用できるものだから人物の特定は難しいだろう。

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