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第944話 別離 12-3
「……僕という存在は、彼のとって辛いものなんでしょうか」
僕は彼に苦しい思いばかりさせる。それなのにその腕を広げて、いつだって藤堂は僕を守ろうとする。自分が一番傷ついているはずなのに、僕が傷つかないようにすべてを背負って深い傷を負う。僕が彼を愛することは間違いだったんだろうか。僕が答えを出さなければ、こんな未来は訪れなかった。
「いいえ、あなたはあの子にとっての救いです。西岡先生、あなたはまっすぐに藤堂を愛していますか?」
「愛しています。……彼以外のすべてをなくしても、それでもいいと思えるくらいに」
「あの子もまた同じことを思っています。いま自分が存在していられるのは、あなたという人が傍にいるからだと、そう言っていましたよ」
それはあまりにも藤堂らしい言葉で、想像したらあふれた感情がこぼれ落ちた。そういうことは面と向かって僕に言うべきだ。でもきっといまはそんな言葉も容易く紡げないほど苦しんでいるのかもしれない。
藤堂のことだからまた心の内に色んなことを溜め込んでいるんじゃないだろうか。父親のことといい、今回の伯父のことといい身内の話だ。余計僕に話をしにくいのかもしれない。それに藤堂はなんでも自分で解決しようとする悪い癖がある。
「僕がいまできることはなんでしょうか」
「そうですね、掴んだ手を離さずにいることではないですか」
本当にそれだけでいいのだろうか。もっと僕が藤堂にしてあげられることはないのだろうか。抱きしめたい。腕の中に閉じ込めて、すべてのものから守りたいと思う。でも僕は無力だ。きっと大きな力には敵わない。
でも、それでも、藤堂を失うことだけはしたくない。
「僕は、藤堂と一緒に生きていきたいです」
「それが望む道ならば、へこたれていてはいけませんよ。そしてできれば二人とも考えを改めてくれると嬉しいですね」
「でもこのままなにもお咎めがないというのは難しいですよね」
「届けのことやメールの件は私に任せておいてください」
藤堂が送った届け出は幸い新崎先生宛てだ。まだ上のほうへは知られてはいないのかもしれない。けれど僕の件は本当に大丈夫なのだろうか。
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