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第945話 別離 12-4

 しかし新崎先生が任せろと言うのだから信じるほかない。せめて藤堂のことが表に出なければいいのだけれど。 「色々とありがとうございます」 「いえ、二人がお互いに与える影響がよいものであると私は信じていますよ」  穏やかな笑顔と共に与えられたそれは、思いがけない言葉だった。僕と藤堂のことが学校側に知れた時にはバッシングされるだろうと思っていたし、僕の懲戒免職も即決定だろうと思っていた。だからまさかこんな風に優しい言葉をもらえるとは思っていなかった。誰よりも先に僕たちのことを知ったのが新崎先生でよかったと思う。ほかの先生ではこうはならなかっただろう。 「藤堂のこと、助けてやってくださいね」 「はい、できる限りのことはしようと思っています」  僕にできることがあるのか正直言ってわからないけれど、それでも小さく些細なことでもいいから藤堂の力になりたいと思う。藤堂の歩く未来が明るいものになるようにどんなことでもしたい。 「西岡先生がいてくれれば安心できます。彼は無理をしやすいですからね」 「僕もそれは気がかりです」  育ってきた環境がそうさせてしまったのか、藤堂は本当に我慢をすることが身についてしまっている。早く色んな問題を解決して藤堂の心が安らげる状態にしてあげたい。 「今日はこれから藤堂のところへ行きますか?」 「はい、行ってみようと思います」 「では頂いたものは預かっておきますと伝えてください」 「わかりました」  柔らかな笑みを浮かべた新崎先生は僕の目を見て大きく頷いた。その眼差しを受けて僕は立ち上がり頭を下げた。何度感謝してもしきれないほどの思いが胸の中に広がる。この恩を返すためにも教師を続けることを最後まで諦めないでいよう。そして藤堂を退学になんてさせないようちゃんと話し合おう。  新崎先生に挨拶を済ませると、僕は病院へと向かうことにした。

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