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第946話 別離 13-1
藤堂の一見した見た目や雰囲気はとても落ち着いていて、迷いや戸惑いなんかないんじゃないかと思わせる。最初の頃は正直言えば僕もそう思っていた。でも一緒にいるうちにそれは弱さの裏返しなんだって気がついた。藤堂の強さは自分を守るために身に付いたものなんだ。だから本当の藤堂は傷つきやすくて繊細でとっても脆い部分を持っている。けれどその弱さを必死で人に見せまいとして強くあろうとするから、心は疲弊しどんどん小さな刃物に傷つけられていく。そして限界が来ると藤堂は殻に閉じこもるように人から離れていってしまう。
それなのに見過ごしていた――藤堂の弱さに気づいていたのに、僕はうまく心が通じ合えないことに目を伏せていた。時間が解決するだろうと、いまは仕方がないのだと距離を置いてしまっていた。
考え直そうと思っていた矢先ではあるが、僕の行動は少し遅かったのかもしれない。
「どこに行ったんだよ」
空になった病室を見つめながら、携帯電話を耳に当て僕は唇を噛んだ。そして耳元で聞こえる無機質なアナウンスに思わず頭を抱えてしまった。いまどき電波の届かない場所なんて限られている。考えられるのは意図的に電源を切っていることぐらいだ。
繋がらない電話は諦めて携帯電話を上着のポケットに突っ込んだ。そして僕は辺りに視線を巡らせて、見知った顔を探した。
「あの、篠田さん」
運よくすぐにいつも病室に来ていた看護師さんを見つけられた。篠田さんは僕とも何度も話したことがあり面識がある。数メートル先を歩くその背中を追いかけて、僕は急いで彼女を呼び止める。声をかけられた篠田さんは不思議そうな顔で振り返るが、僕の顔を見た途端に困惑した面持ちに変わった。その表情の変化で僕は藤堂の退院になにか理由があるのではと推測した。
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