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第947話 別離 13-2
「個室の藤堂優哉。いつ退院しましたか?」
「あ、えーと、今日の午前に」
行く先を遮るように立った僕の勢いに気圧されたのか、篠田さんは少し視線をさ迷わせ口ごもりながら答えた。
「退院、いつ決まったんですか?」
「えっと、昨日です、ね」
「そんなに急に? なにかあったんですか?」
「うーん、それはぁ、個人的なことなので」
僕の問いかけに篠田さんはそわそわと何度も辺りを見回した。やはり藤堂が退院した理由かなにかを知っているのかもしれない。
「今回の退院は伯父さんに、川端さんに関係ありますよね」
口ごもってはいるが、どことなく話したい素振りは感じられる。なのでとりあえず当てずっぽうで、いま関係がありそうなことを聞いてみた。
「それは、その」
泳いでいる視線を追いかけてじっと見つめると、慌てたように目を伏せられた。それでも視線を離さず見つめていたら、身体を反転して後ろを向かれてしまう。
さすがに退院事情までは聞きだせないということか。しかし肩を落として諦めようとしたら、篠田さんは後ろを向いたまま「独り言です」と小さな声で呟いた。
「えっ?」
「しっ、優哉くんと親しかった西岡さんにだから話します。内緒でお願いしますね」
「あ、うん」
驚いて声を上げたら、篠田さんは慌てて振り向き人差し指を口元に当てた。それに大きく頷いて答えると、辺りを気にしながら彼女は小さな声で話し始める。
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