949 / 1096

第949話 別離 13-4

「あ、やばい師長だ! 私もう行かなきゃ、ごめんなさい。これ以上の詳しいことはわからないです」  廊下の向こうから歩いてくる女性に気がついた篠田さんは、慌てて僕に頭を下げると足早に歩き去っていく。僕はその後ろ姿を見送りながらポケットにしまっていた携帯電話を取り出した。そして電話帳を開き片平の名前を探す。片平とは夏休みの校外部活動の時に連絡先を交換している。 「いまは授業中だしメールを送っておこう」  片平や三島のところになにか行く先の手がかりを残しているかもしれない。それと自宅の場所を聞いておきたい。藤堂の自宅がある最寄り駅は知っているが詳しい場所まではわからない。もう自宅にはいないかもしれないが自分で行って確かめたい気持ちがある。 「追いかけたら迷惑かなって、いまは考えてちゃ駄目なんだよな、きっと」  なにも言わずにいなくなったからといって、藤堂が本当にそれを望んでいるとは限らない。むしろ心の内を打ち明けられずにいる可能性のほうが高いことも考えられる。もうこんな状況だ。下手な遠慮をして黙って待つよりも、目の前まで行って直接心の中にある言葉を聞きたいと思う。  ただ待つんじゃなくて、藤堂の声を聞いて一緒に考えて、それからどうするかを二人で決めたい。それでもう僕はいらないのだと言われたら、その時は潔く身を引けばいい。だからそれまでは、藤堂のことをこれ以上見失わないように追いかけていこう。 「最寄り駅まで四十分くらいか」  電車でここから移動して最寄りの駅に着くまでに学校の授業も終わっているだろう。藤堂がいなくなったことを知っているのかわからないけれど、片平のことだからメールを見たらきっとすぐに折り返してくれるに違いない。  そう思うと身体はすぐさま動いた。病院を抜け、僕は藤堂の家へ向かうべく足を踏み出した。

ともだちにシェアしよう!