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第953話 別離 14-4
「ありがとうございました」
「……」
「おかげで道もわかりました」
「……」
地図を見ていた視線を青年に向けて頭を下げると、僕は笑みを浮かべて礼を告げる。しかしなぜか青年は僕の顔をじっと見つめたままぴくりとも動かない。どうかしたのだろうかとしばらくそのまま、まっすぐな視線に見つめられていると、青年は考え込むような仕草をし始めた。
「あの」
「お兄さん、ちょっともうちょっと顔こっち向いて」
「え?」
急に正面から覗き込むように顔を近づけられて、驚きのあまり肩が跳ねる。青年はとても綺麗な顔をしていると思う。間近で見ても損なわれないほど瞬くまつげも長く、肌も艶やかで目鼻立ちもはっきりしていて整っている。しかしいくら綺麗な顔でも、いきなり目の前に迫るとどうしていいかわからなくなる。
「思い出した!」
「え? なにを?」
僕の顔をじっと見ていた青年がいきなり大きな声を出してこちらを指さした。その声と仕草にまた肩が大きく跳ね上がってしまう。
「お兄さん、ユウが追いかけてった人でしょ!」
「ユウ? 追いかけた?」
「あれからユウとどうなったの!」
僕の肩を掴み矢継ぎ早に聞いてくる青年に頭の中が混乱してうまく言葉が返せない。それでもなんとか頭を働かせて考える。ユウという呼び名には覚えがある。追いかけたというのはどういう意味だろう。
「もしかして覚えてないの? 背の高い黒髪のイケメンだよ。二年ちょっと前くらいの雪の晩に会ったでしょ」
「え? ユウって、藤堂?」
二年前の冬に会った人物でユウと言えば一人しかいない。しかしそれを知っている彼は誰だろう。僕はあの日のことを思い出しながらじっと目の前の青年を見つめた。
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