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第957話 別離 15-4

「けど優し過ぎて好きでいるのが辛くなるんだよ。みんな気づくんだ。ユウは好きで傍にいてくれるんじゃない。優しいから傍にいてくれるんだって。きっとこのまま隣にいても振り向いてはくれない。だからみんな離れていった」  数日、数週間、数ヶ月――傍にいればいるほど好きでいるのが辛くなる。それってどれほど辛いことだろう。優しさが苦しくなるって多分きっと涙が出るほど辛い。  だけど僕を諦めようと思っていた藤堂も必死だったのかもしれない。それを思うとひどく胸が痛くなる。無理に女の子と付き合ったり、ほか誰かを好きになろうとしたり。僕が答えを出せないまま手を離してしまったから、藤堂に随分と遠回りをさせてしまった。初めて会ったあの日、僕が離れたくないと言っていたら、藤堂が苦しい思いをすることはなかったのだろうか。 「その点、俺は諦めが悪かったけどね。振られてからもしつこく会いたいって言って困らせた。二人きりでは会ってくれなかったけど、何回か時間を作ってくれた」 「そうだったんだ」  もしかして以前に飯田が言っていたのはこのことだったのか。峰岸と二人で未成年が立ち入るべきではない繁華街で目撃されていた。それは確か一年の時だったはずだ。 「一方的に振ったことを気にしてたから付け入ったよね。でも一緒に来てた子に怒られた。そんなことしてても罪悪感を生むだけで一生報われないって」 「いまは?」 「もちろん、大丈夫に決まってるでしょ。いまはもういい思い出だし、俺いま付き合ってる奴いるんだ。ユウに負けないくらいのいい男だから」 「そっか」  ずっと気になっていたことがいまようやく心の中で落ち着いた気がする。僕のことを覚えているくらいだから、彼は藤堂に思い入れが深かったに違いない。だからいまもまだ心が残っていたらどうしようと、僕はずっと不安だったのだろう。もしかしたらそれを確かめたくてここに来たのかもしれない。自分の重たい感情に気がついてため息がこぼれてしまう。  晴れやかに笑うミナトを見ながら、僕は息苦しさを覚える胸をきつく押さえた。

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