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第958話 別離 16-1

 藤堂の過去を知るミナトについていけば、なにかがわかるかもしれないと思っていた。だけど蓋を開けてみれば、ミナトの気持ちの行き先が気になったり、僕を諦めるためにほかの誰かと向き合おうとしていた藤堂が気になったり。僕の心はまったく違うことで揺れていた。 「いまでもユウのこと気にする子は多いけど、みんな懐かしい思い出だって思ってるよ」 「本当に藤堂はモテてたんだな」  真面目な藤堂のことだから、相手にまっすぐと優しさをかけていたのだろうと想像できる。だけど傍にいるほどみんな苦しかったのかもしれないけれど、それは藤堂も同じだったのではないだろうか。  どんなに試してみても僕以外の人を好きになれなかったと藤堂は言っていた。結局、藤堂を苦しめていたのは僕だったんだ。  初めて会ったあの日、確かに僕の中に想いが生まれた。その芽生えた想いが恋心じゃなかったとしても、はじまりから僕は藤堂に惹かれていた。きっとどんな道を選んだとしても藤堂を好きになっていたんじゃないかと思う。だからあの日、やっぱり僕は藤堂の手を離してはいけなかったんだ。  いつだって僕は大切なことに気づくのが遅くて、想いを伝えられないまま藤堂はいなくなってしまう。――傍にいたい、離れたくない。会いたかった、僕も好きだ。藤堂のことが知りたい。痛みを分けて欲しい。たったそれだけのことが言えなくて、僕は後悔ばかりする。ちゃんと言葉にできていれば、藤堂がほかの誰かに心を砕くこともなかったかもしれない。  ちゃんと伝えていたら、藤堂を見失わずに済んだかもしれない。 「あれからずっと気になってたんだよね。ユウ、幸せになった?」 「……え?」  ぼんやりとしていた僕にふいに投げかけられたそれは、なに気ない純粋な問いかけだったんだろうと思う。だけど僕はその問いに言葉を詰まらせてしまった。嘘でもうんと頷けばいいのにそれができなくて、うろたえたように目をさ迷わせてしまう。好きでいてくれる、それはわかっている。しかしいま改めて問われると、その答えを僕は持っていない。  もし僕といるのが幸せだったのなら、こんな風に離れてしまうこともなかったんじゃないのか。目の前に突きつけられる現実に、また不安に押しつぶされそうになる。

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