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第962話 別離 17-1

 初めて藤堂に会ったのはいまから五年ほど前の梅雨の時期――藤堂がまだ中学一年の頃だ。そして再会したのが中学三年の二月。そこには二年半以上の空白がある。そのあいだに誰と出会ったのか、どんなことがあったのか、それを僕は知らない。  この頃に明良が通っていたバーに顔を出していたのは知っている。付き合った人がたくさんいるのも聞いた。それでも気持ちは僕にあったと言われて、藤堂を疑うことはしなかった。いまもそれを疑うつもりはないけれど、信頼し心を預けた人がいるのだとそう思うとひどく不安になる。  だけど藤堂だって一人でずっと辛かったのだから、頼りたいと思える人が現れてもおかしくない。それに何度繰り返し過去を振り返っても、共有できなかった時間は手に入らないんだ。藤堂との空白の時間は埋められない。 「なんか、西岡さん結構ワケアリな感じだね」  藤堂の最初の恋人――その話を聞いた途端に落ち込んだ僕を見て、ミナトは貴也と顔を見合わせ困ったように眉を寄せる。前置きをされたのだからもっと強く構えていられたらよかったのだけれど、思った以上にダメージがあった。もしも藤堂がその人を頼って連絡を取っていたら、さらに痛いダメージを負いそうだ。  それは僕よりもその人のほうが信頼できると言われたようなものだ。 「……いま、藤堂の行方がわからなくて」  俯きがちな僕をカウンターに両腕を乗せて覗き込んでくるミナトはかなり心配げだ。その視線に思わず本音を呟いてしまった。黙ったままでいるのが辛くなってきたのだろうか。誰かに聞いて欲しい、助けて欲しいと弱さが出てきてしまった。 「えっ? ユウ、いま行方不明なの?」  身の回りにいる知人が行方不明になるなどそうそうあることではない。よほど驚いたのか、ミナトはしばらく口を開けたまま固まってしまった。 「僕の知る限りでは居場所がわからないんだ」  以前のように連絡がつかなくなったというだけならまだよかった。話せなくてもそこにいるとわかれば、まだ安心ができただろう。けれど存在を感じられないほど一方的に途切れてしまった。

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