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第964話 別離 17-3
ミナトがいなくなり貴也と二人きりになると、急に店内はしんと静まり返る。微かに扉の向こうから声が聞こえてくるほどの沈黙に、少しばかり居心地が悪くなってしまう。しかしなにか話しかけるべきか悩んでいたら、ふいに音楽が耳に届いた。
俯きがちだった顔を持ち上げて貴也を見ると、棚にある小さな機械を操作していた。店内に流れたジャズはどうやら有線のようだ。沈黙に気を使って流してくれたのだろうか。
「珈琲でも飲む?」
「え? あ、ありがとう」
カウンターに置かれたグラスを下げると、貴也は小さなポットを一口コンロにかけた。そしてお湯が沸くまでのあいだ、手馴れた様子で珈琲豆を挽いてドリッパーに準備していく。その様子をじっと追いかけて見ていても、貴也は嫌な顔一つせずに黙々と作業を進めている。
口数は多くないけれど、彼は人に穏やかさを与える落ち着きを持った子だなと思った。お喋り上手なミナトと聞き上手そうな貴也はいい具合にバランスが取れているのかもしれない。
「貴也くんいまいくつ?」
「十九」
「え? そうなんだ、若いね」
一見した見た目や雰囲気が落ち着いているからもう少し年上かと思っていた。藤堂と一つしか違わないのか。ミナトも若く見えるけどいくつなのだろう。自分のお店を持つくらいだから貴也ほど若くはないと思うのだが、今時の子は年齢不詳な子が多いな。
「ミナトは今年二十五になったところ」
「そっか二十五か。若いのに店を持ってるなんてすごいな」
聞く前に察した貴也はミナトの歳を教えてくれた。見た目はもうちょっと若く見えるけれど、こうして店を持っているのを考えれば実年齢でも若いくらいだろう。
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