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第965話 別離 17-4

「高校の頃からずっとバイトして貯金してたらしい。まあ、三割はスポンサーがいるけど」 「へぇ、スポンサーか」  名刺の数もかなり多いし、固定客が多いのだろうと思っていたが、スポンサーまでいるとは思いもよらなかった。けれどミナトの持つ人を惹きつける雰囲気ならば、手助けしてやろうという気になる人が一人や二人いてもおかしくない。まっすぐとした性格は人を裏切るタイプでもないだろうし、僕でも困っていたらなにかしてあげたくなる。しかしそれは貴也にとっては不満の一つなのかもしれない。  ずっと表情を崩さなかった貴也だったが、一瞬だけ眉間にしわを寄せて不服そうな顔をした。 「恋人に向けられる好意って、どんなものでもちょっと気になるよな」  それが恋愛に関係するものではないとしても、あまりにも熱心に好意をあらわにされると不安になるし、嫉妬もしたくなる。相手が魅力的な人間であればあるほど、その気持ちは強くなってしまう。 「人に好かれるっていいことだし、もっと構えていられたらいいんだろうけど」 「ユウみたいなモテる男は面倒だろう」 「面倒って言うか、厄介だよな」  本人の意思とは関係なく人の目を惹きつけるところがあるから、どこにいても誰かの視線が藤堂を振り返る。そんな視線に対し、彼は自分のものなんだと公言できないもどかしさがある。 「貴也は藤堂に会ったことは」 「ない、けど話は飽きるほど何回も聞かされた」  また少し貴也の顔が不満げに歪められた。こんなに嫌そうな顔をするくらいだから、本当に何度も藤堂の話題が上がるのだろう。ミナトは見ただけでわかるくらい貴也のことを好きでいるけれど、何度も繰り返し聞かされるのは相当きついはずだ。  最初の恋人、なんて言われただけで僕はとどめを刺された気分になるくらいの衝撃だった。だけど仕事柄ミナトは昔話を避けては通れない。貴也はそれをわかっているから、表立って不満を言わないのだ。僕も少しくらいその度量が欲しいと思ってしまった。

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